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昭和戦前古建築散歩 「戒厳令」下の撮影――小舟町小倉ビル

建築物の撮影は週末がいい。車と人がすくないからだ。とくに問題なのは車だ。人はたいていの場合、すぐに通りすぎてくれるが、駐車中の車はどうにもできない。

しかし、週末の東京というのは奇妙な町だ。銀座や新宿といった繁華街はにぎわうが、オフィス街は死の町になってしまうことがあった。自転車一台通らない交叉点のど真ん中で、ふと前後左右を見ると、まったく人気がなくて、首筋がひんやりするような感覚を何度も味わった。

今日の写真は、撮影日の記憶がないのだが、調べてみて1984年9月2日とわかった。忘れられない出来事があったからだ。

Kokura building
この日の日本橋小舟町は不気味なほど静かだった。

この日、ほかにどの建物を撮ったかは、日記をひっくり返してみないことにはわからない。たぶん、蛎殻町、人形町、掘留あたりをまわったのだろうが、そんなに小さな範囲ですますとは考えられないので、もっと遠くまでいき、京橋のラボに近づくように戻ってきたのだと思う。

もう日が傾き、撮影できるぎりぎりの光だった。この建物が気に入っていたので、そろそろ撮っておこうと、フィルムを余して、この通りにやってきた。小舟町は問屋とオフィスが多く、日曜はがらんとしている。このときも無人だった。彼は誰時、逢魔が時である。

まったく危険などないので、道路の真ん中にカメラバッグをおき、ボディーにレンズをマウントした。いつものようにデイライト・フィルムだ。撮れるかどうか不安だった。

Kokura building
『日本近代建築総覧』には、昭和9年竣工、錢高組設計とある。建設会社所属のアーキテクトは名前が記されない場合がある。

マウントの終わったカメラを手に起きあがろうとしたら、道路の向こうに人影が見えた。さっきからずっとそこにいたのに、並木のせいで影になり、じっと動かなかったこともあって、気づかなかったのだ。

向こうはわたしのことをじっと見ていたらしい。白い棒が見えて、ああ、警官か、と思った。この日はあちこちで警邏の警官を見ていた。韓国の大統領が来日するという話だったが、それは木曜のことなのに、すでに厳戒態勢が敷かれていたのである。例によって、全国各地から応援の警官が東京に集まったのだろう。

それはいいが、この警官は、なんでこんなところに、ひとりでぽつんと立っているのだ、と思った。まるで警官の亡霊が、厳戒態勢をいいことに勝手に出現したように見えた。

こっちを見ている様子が気に入らない。これは来るな、と思った。案の定、長い警棒を錫杖のようにしてその警官はゆっくり、重々しく歩み寄ってきた。刑事だって二人ひと組だ、警邏警官が単独行動ってことはないだろうに、偽物っぽい奴だなあ、と思った。

Kokura building
背後で監視している警官が邪魔で、内部まで入るのをためらってしまった。しかし、スキャンしてみて、三脚なしでここまで撮った昔の自分に「でかした!」と拍手してしまった。いや、手前味噌はともかく、いい漆喰装飾で、こういうものがなくなってしまったのは惜しい。いま、これだけのものをリーズナブルな値段でつくってくれる職人がどれだけいるだろうか?

警官というのは、こういう場合、予想外の行動などとらない。彼は、ここでなにをしているのだ、と訊いた。見ての通り、この物件の撮影をおこなうのだ、とこたえた。

警官はなかなか納得しなかった。半世紀前にできた古ビルを、韓国の大統領がはじめて来日するという国家的一大事件の真っ最中(になるのは数日後のことだが)に撮影しなければならない必然性はなんだ、というのだ。

まるで不条理小説だ。東京のど真ん中、見渡すかぎり人っ子ひとりいない通りで、警邏警官が、ただ写真を撮影している人間に不審をいだいた。バッグをごそごそやったのが気になったのかもしれない。

Kokura building

五分ぐらいだろうか、世にも噛み合わない会話をした。わたしは小心で臆病な人間だが、こういうときは悪く度胸が据わる。なんなら署までいって徹底的に話し合おう、話し合うとなったら俺は負けないぞ、最後には謝罪の言葉をいわせてやるからな、という目つきでにらみつけながら、俺を拘束する法律的根拠などない、ということを婉曲に伝えた。

身分証明書がどうのとかいうので、いつから日本では身分証携帯が義務化されたのだ、と拒否した。どういう根拠があって、俺を不審尋問するのだ、あるならいえ、ないなら、もうほうっておいてくれ、こうしているあいだにも暗くなっているのだ、といった。それで終わりだった。

警官はしぶしぶあきらめた。そして、ちょっと離れ、わたしが撮影する様子を最後まで見届けた。なにか小さな法律違反をすれば、検束するつもりだったのかもしれない。

犬も歩けば棒に当たる、都市徘徊者が歩けば警邏警官に当たる、1984年9月2日はそういう日だった。なにか大きな行事があると、戒厳令の予行演習じみたことをする国なので、東京オリンピック招致失敗はまことにめでたい。

kankoku shinbun
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テーマ : 戦前の建築 - ジャンル : その他

コメント

TONBIの方が解るかしら~

はじめましてと言うべきでしょうか?ツブログではTONBIです。
東京は、近代的なビルもあれば、昭和を思わせる建物もありますよね。私の住む埼玉は、(埼玉も広いですが、)近代的建物と言うより、狸・イタチ・亀・を良く見かける。本当に平野で、富士山も、秩父連山も見える田舎です。カメラかまえても、おまわりさんに睨まれる事もなく、のほほ~んと暮らしております。(投稿記事より、動く亀が可愛い~。チョコッと遊んでしまった(^^)ごめんなさい。

いらっしゃいませ、TONBIさん

いらっしゃいませ、TONBIさん。

> はじめましてと言うべきでしょうか?ツブログではTONBIです。

やはり、はじめまして、だろうと思います。つぶろぐは、自分のExciteブログに貼り付け、FC2ブログの更新状況のお知らせに使っているので、あまりほかの方の投稿を読んでいないのです。

> 私の住む埼玉は、(埼玉も広いですが)近代的建物と言うより、狸・イタチ・亀・を良く見かける。

東京も、皇居周辺などは野生動物の宝庫といわれていますよ。ウソかホントか、お濠でワニを見たという話もあるぐらいです。ペットの捨て場にされているようです。

狸とアライグマはうちの近所にもいますが(猫たちが夜中に大騒ぎしてアライグマを追い払っていました)、イタチはいませんねえ。かわりにリスが電線音頭を踊っています。

> 投稿記事より、動く亀が可愛い~。チョコッと遊んでしまった(^^)

ほかに魚のヴァリエーションもあります。魚のほうが動きがスムーズかもしれません。べつに宣伝費をもらっているわけではありませんが、

http://abowman.com/google-modules/fish/

にあります。そろそろ、なにかべつのものに交換しようかなと思っています。ペンギンかな。

おはようございます。

おはようございます。亀さんの、ブログパーツを、自分のブログに付けようとしましたが、「許可されていないブログパーツ」とかで、だめでした(TT)。
せっかく教えていただいたのに~。(有難うございました。)

イタチ出現!?

残念でしたねえ>TONBIさん。ああいうものの対応はブログによってさまざまですからね。FC2はほとんどなんでもオーケイみたいです。

うちのほうではイタチは見ないなどと書いたら、昨夜、不器用に電線を伝っているのがいて、リスにしては変な恰好だと思ったら、どうもイタチのようでした。リスよりずっと縦長。関東全域でイタチが増殖中とか? うちは神奈川です。

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