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猫町徘徊

猫ブログをはじめようと思い、パートナーと名前を相談した。ちょっと難航したが、結局、『猫町ぶらり』となった。もちろん、出典は萩原朔太郎の『猫町』である。

これは青空文庫で読むことができるが、できれば伝統的な印刷物で、それも歴史的仮名遣いで読むほうがはるかに味わいがある。

萩原朔太郎『青猫』復刻版化粧函

『青猫』復刻版表紙
『猫町』の復刻版をもっているはずだと思って、ほるぷ出版の復刻版をしまったところを見てみたが、出てきたのは『青猫』だけだった。上が函、下が表紙。シンプルだが、悪くない装幀である。アンカット・フランス装で、そこもちゃんと復刻してある。中を見たら、アンカットのままだった。ということはつまり、切っていないのだから、読んでいないということ! これは飾りないしは愛玩品として買い、読むのはべつのエディションにした。いまではそういう趣味はないが、若いころはビブリオマニアだったのだ。

『猫町』の導入部に、道に迷って見知らぬ町に入りこんだというくだりがある。上記の青空文庫版からその部分を引用させていただく。

「一体こんな町が、東京の何所にあったのだろう。私は地理を忘れてしまった。しかし時間の計算から、それが私の家の近所であること、徒歩で半時間位しか離れていないいつもの私の散歩区域、もしくはそのすぐ近い範囲にあることだけは、確実に疑いなく解っていた。しかもそんな近いところに、今まで少しも人に知れずに、どうしてこんな町があったのだろう?
 私は夢を見ているような気がした。それが現実の町ではなくって、幻燈の幕に映った、影絵の町のように思われた。だがその瞬間に、私の記憶と常識が回復した。気が付いて見れば、それは私のよく知っている、近所の詰らない、ありふれた郊外の町なのである。(中略)この魔法のような不思議の変化は、単に私が道に迷って、方位を錯覚したことにだけ原因している。いつも町の南はずれにあるポストが、反対の入口である北に見えた。いつもは左側にある街路の町家が、逆に右側の方へ移ってしまった。そしてただこの変化が、すべての町を珍しく新しい物に見せたのだった」

そして、『猫町』の語り手は、こういう「現象」(?)が起きる理由を、三半規管の異常による方向感覚の喪失に帰しているが、それはどうだろうか。認知科学のほうで簡単に説明できることなのではないかと思うが、そういうことにしてしまい、自分の頭を使わないのは好きではない。

アメリカデイゴ遠景
海岸の公園に植えられたアメリカデイゴ。南米原産で、鹿児島には多いそうだが、最近は南関東でもときおり見かけるようになった。関東の南国化の兆しなのだろう。快晴の昼間に撮れば、南国らしさが伝わるだろうが、これを撮ったのは曇りの日の日没直前。来年はいいタイミングで撮ろうと反省した。

われわれの意識における「町のゲシュタルト」とでもいうべきものは、きっと縦横上下左右の区別のあるユニットが一定のルールにしたがって相互接続した、その連なりなのではないかという気がする。

たとえば、「トンネル」「坂」「長い階段」「駅」というブロックまたはユニットがあり、これを決められた方向で相互に接続したものが「脳内地図」としてある、という概念が想定できる。

と考えると、これはそれほど複雑なものではないように思えてくる。いわば、穴のあいた珠にひもを通して数珠にした程度の構造なのだ。たんに、数珠ほど珠の数が少ないことはなく、首を三廻りぐらいする真珠のネックレスよりも珠が多いだけだろう。

アメリカデイゴの木
この木にかかっていた名札に「アメリカデイゴ」と書いてあったから、そのまま覚えたのだが、調べてみると、「デイゴ」は日本語で、「梯梧」と書くのだそうな。なんでも調べてみるものだ!

そして、このひもの通し方を変えてしまうと、相互の連関が失われ、個々の「珠」は一瞬にして認知不能な存在になってしまうのではないか? 既知のものを既知の法則と順序で接続した場合にのみ認知されるのであって、接続方法を変更しただけで、既知のユニットは未知の存在へと退行させられてしまう。

だから、このような「猫町現象」は、とりたてて方向感覚が悪いわけではない、ふつうの人間にも起こるにちがいない。多くの人が経験しながら、それを一般化、抽象化し、キャッチーな「愛称」をつけられずに来た「感覚の事象」をあざやかに取り出し、印象的な名前を与えたことで、『猫町』は文学史の一角に居場所を確保したのである。

そして、一般名詞としての「猫町」現象は、散歩にはつきものだ。じっさい、ついこのあいだも、わたしは認知の錯誤に幻惑させられた。その話はつぎのときに。

アメリカデイゴの花
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